株式の相続はどうやって行う?必要な手続や税金の計算方法などを解説
株式を相続するには、株式の評価額を算出したり、名義変更手続をしたりする必要があります。
しかし、株式の評価方法は種類によっては複雑な計算が必要になりますし、相続後に売却する場合にはいくつか注意点もあります。
そこで今回の記事では、株式を相続する場合に必要となる手続を解説するほか、株式の評価方法や関連する相続税の計算方法、株式を売却する方法や注意点などについて解説します。
- この記事でわかること
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- 株式を相続するのに必要な手続
- 株式を評価する方法
- 株式の相続に関する注意点
- 目次
株式を相続するのに必要な手続
被相続人が所有していた株式を相続することになった場合は、以下のような手続が必要になります。
- 株式の種類の確認と評価
- 分割割合や方法の決定(遺言書がない場合)
- 名義変更手続
- 相続税申告
預貯金や不動産とは異なる部分があるため、注意が必要です。以下でそれぞれの手続について詳しく見ていきましょう。
①株式の種類を確認して評価する
株式は、「上場株式」と「非上場株式」の大きく2種類に分けられます。種類によってのちの手続が異なる部分があるため、まずは相続する株式の種類を確認しましょう。なお、上場しているかどうか
の確認は、証券取引所のWebサイトなどで調べることができます。
株式の種類がわかったら、次は株式の評価をしなければなりません。
株式の評価とは、相続が発生した時点での時価を確認する作業です。株式の価値は当然日々変わっていくため、相続時点の価値を特定しなければ、遺産分割や相続税の申告ができないからです。
ただし、株式の評価方法は複雑なので、詳細はのちにご説明します。
準確定申告が必要になる場合
被相続人が亡くなる前に株式を売却して利益が出ていた場合や、配当金を受け取っていた場合は、「準確定申告」が必要になることがあります。
準確定申告とは、本来は被相続人が行うべき確定申告を、相続人が代わりに行うことをいいます。
準確定申告は、相続開始日の翌日から4ヵ月以内という期限があるため、被相続人の取引履歴などを早めに調べておきましょう。
ただし、利用している証券口座の種類によっては、あらかじめ所得税を差し引いた金額で入金してもらえるため、準確定申告が不要な場合もあります。ご自身のケースがどちらに該当するか不安な場合は、一度税理士などの専門家へご相談ください。
②分割割合や方法を決める(遺言書がない場合)
株式の評価が終わったら、その株式を「誰が」「どれだけ」「どのように」相続するのかを決める必要があります。
遺言書があれば、基本的にはその内容どおりに分割すればよいのですが、なければ相続人全員で遺産分割協議をしなければなりません。
「誰がどれだけ」という点については、法律によって定められた法定相続分を基準に決めることもできますし、相続人全員の合意があれば自由に決めることもできます。
「どのように」という点は、要するに株式の分割方法を決めるということです。代表的な方法としては以下の3つがあります。
株式の分割方法の例
- 現物分割
株式をそのまま取得する方法。たとえば、Aさんが1,000株、Bさんが500株相続するなど。 - 代償分割
株式を1人の相続人が取得し、ほかの相続人に対して代わりに金銭を支払う方法。たとえば、Aさんが全1,500株を相続する代わりに、Bさんに対して1,000万円を支払うなど。 - 換価分割
相続する株式をすべて売却して、その利益を相続人全員で分ける方法。たとえば、全株式の売却益が3,000万円だった場合、Aさんが2,000万円、Bさんが1,000万円を受け取るなど。
③名義変更の手続をする
株式の相続人や分配割合が決まったら、次は名義変更の手続をします。
具体的には、株式を取り扱っている証券会社に問い合わせて、被相続人から相続人への名義変更をしたい旨を伝えます。そして所定の手続を行うことで、相続人の証券口座に株式が移されたら完了です。
ただし、被相続人が証券口座を保有していない場合は、一度新しい証券口座を開設して、そのあとに名義変更する必要があるためご注意ください。
なお、非上場株式の場合は、証券会社ではなく株式を発行した会社に問い合わせて、名義変更のやり方を確認しましょう。会社ごとにやり方や手続完了までの期間が異なる場合もあるので、早めに確認しておくべきです。
④相続税を申告する
最後に、株式も含めた全相続財産に対して相続税がいくらかかる計算して、税務署へ申告・納付を行います。
相続税の申告期限は、相続開始日の翌日から10ヵ月となっており、過ぎた場合は罰則もありますので、必ず期限内に完了できるようにしましょう。
相続税の計算方法について、詳しくはこちらのコラムもご覧ください。
株式の評価方法は?
株式の評価方法は、上場株式と非上場株式によって異なるため、それぞれに分けて確認していきましょう。
上場株式の場合
上場株式の評価は「1株あたりの金額×保有株数」によって行います。
そして「1株あたりの金額」は、以下の4つの時点のうち、もっとも低い金額を採用します。
- 相続開始日の終値
- 相続開始日の属する月の終値の月平均額
- 相続開始日の属する月の前月の終値の月平均額
- 相続開始日の属する月の前々月の終値の月平均額
- ※ 相続開始日が土日や祝日で市場が開いていない場合、相続が開始した日にもっとも近い日の最終価格を採用。
上記の金額は、証券会社のWebサイトなどで調べることができます。また、金額の確認と併せて証券会社から「残高証明書」の取寄せも行っておきましょう。この残高証明書があれば、証明日時点の証券口座の残高や保有株数がわかりますし、上記の4つの金額についても確認できます。
非上場株式の場合
非上場株式の場合は、上場株式と比べて評価方法が複雑です。というのも、上場株式のような「直接的な市場価格が存在しない」ため、評価基準が複数あり、算出にもさまざまな指標が求められるからです。
具体的には、会社の種類や規模などによって大きく以下の3つに分かれます。
- 純資産価額方式
- 類似業種比準方式
- 配当還元方式
それぞれ見ていきます。
①純資産価額方式
純資産価額方式は、簡単にいえば、株式を発行する会社が売却されると仮定して、その想定売却額の1株あたりの金額を算出して評価額を決定する方式です。主に事業規模の小さい会社の際に用いられますが、規模が大きい会社の際にも採用は可能です。
純資産価額方式の計算では、株式を発行する会社の純資産価額から評価差額に対する法人税等相当額を差し引き、発行済みの株式の数で割ることで、1株あたりの評価額を算出します。
②類似業種比準方式
類似業種比準方式とは、株式を発行する会社と、業種が類似している上場会社の株価を参考にする方法です。主に、発行会社の規模が大きい場合に採用される傾向にあります。
具体的な評価額の計算では、類似業種の株価をはじめ、国税庁が公表しているその会社の配当金額や利益金額、簿価純資産価額などを用いて計算します。
また、先ほどの純資産価額方式と組み合わせて評価する「併用方式」もあり、対象の会社が中規模の場合に用いられることが多いです。
③配当還元方式
配当還元方式とは、1株あたりの年配当金額を基準にして算出する方法です。
この方式は、会社経営に関与しない株主が、配当目的などで少数の株式を保有していた場合に用いられます。
【計算例付き】株式にかかる相続税はいくらになる?
株式を相続するとどれくらいの相続税がかかるのか、実際に計算してみましょう。
相続財産:上場株式5,000株(※)
被相続人:父
相続人(法定相続人):長男
相続割合:長男が全額相続
- ※ 計算をわかりやすくするため、相続財産を株式のみにしています。
①株式の評価額を算出
まずは、以下4つの金額を証券会社のWebサイトなどで確認します。
今回は以下の金額を特定できたと仮定します。
- 相続発生日の終値:8,700円
- 相続発生月の毎日の終値の月平均額:8,500円
- 相続発生月の前月の毎日の終値の月平均額:8,200円
- 相続発生月の前々月の毎日の終値の月平均額:8,100円
上記4つの金額のうち、最小値の「8,100円」で計算を行います。
8,100円(1株あたりの金額)×5,000(保有株数)=4,050万円(株式の評価額)
②正味の遺産額を算出
算出した株式の評価額とその他の財産を合計し、正味の遺産額を算出します。
今回は相続財産が株式のみという想定のため、株式の評価額がそのまま正味の遺産額となります。
4,050万円(正味の遺産額)
③課税遺産総額を算出
正味の遺産額から基礎控除額を引いて課税遺産総額を算出します。なお、基礎控除額は「3,000万円+(600万円×法定相続人の人数)」になります。
今回は相続人が1人なので、基礎控除額は3,600万円を差し引きます。
4,050万円(正味の遺産額)―3,600万円=450万円(課税遺産額)
④相続税額を算出
今回は相続人が1人なので、最後に課税遺産額にそのまま相続税率をかけて相続税額を算出します。
450万円×10%(相続税率)=45万円(相続税額)
相続した株式を売却する方法は?
株式を相続した場合、保有する以外にも、売却をして利益を得る選択肢もあります。
しかし、株式を売却するといっても方法は1つではありません。また売却に関する注意点もありますので、確認しておきましょう。
各相続人が個別で売却する方法
1つ目の方法としては、株式を各相続人が相続したあとに、個別で売却する方法があります。
以下のような流れで株の分配、売却を進めます。
- 証券会社へ遺産分割協議書などの必要書類を提出
- その内容に従い被相続人の株式がそれぞれの証券口座へと移管
- 相続人個人名義の株式となり、自由に売却できるようになる
各相続人が自由に売却できるメリットがありますが、一方で株式の売買に慣れていない相続人の場合は注意が必要です。株式は、売却時のタイミング次第では損をするおそれがあるため、せっかく相続した財産が減ってしまう可能性があるからです。
全株式をまとめて売却する方法
もう1つの方法としては、相続人のうち1人が代表者として全株式を売却し、得られた金額を各相続人に分配する方法があります。
以下のような流れで株の売却、分配を進めます。
- 各相続人が代表相続人に株式売却の委任状を提出
- 代表相続人は証券口座の開設と移管を行い、株式を売却
- 売却益を、決められた分割割合で各相続人に分配する
相続人のなかには、高齢などの理由から株式の売却手続を行えない方もいるでしょう。ですが、この方法であれば代表者が代わりに手続を行ってくれますし、得られる利益も公平になりますので、安心して任せることができます。
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株式の相続に関する注意点
「未受領配当金」が発生している場合がある
株式のなかには、配当金が発生する銘柄があります。しかし、被相続人が配当金を受け取らないまま亡くなっていた場合、「未受領配当金」として相続人が受け取ることができます。
未受領配当金は、預貯金や株式と同じように相続財産に含まれます。そのため、遺言書による指定がなければ遺産分割協議をして分配割合などを決める必要がありますし、相続税の計算にも含めなければいけません。
未受領配当金が発生しているかどうかの確認は、株式を管理している証券会社もしくは信託銀行に行いましょう。
また、「配当金領収証」という書類が残っている場合は、未受領配当金が発生している可能性が高いです。配当金領収書は未受領配当金を受け取る際に必要な書類なので、手元にあるということは受領手続がされていないのかもしれません。
なお、未受領配当金には3年~5年の時効が定められているケースが多いです。期間を過ぎると請求する権利が消滅しますので、できるだけ早く手続を行いましょう。
相続後に売却したら売却益にも税金が発生する
相続した株式を売却した場合、売却益に対して、所得税や復興特別所得税および住民税、といった税金(譲渡所得税等)が発生します。
納税額は「株式の売却益×20.315%」で算出可能です。売却益は、売却金額から売却手数料や取得費を差し引くことで求められますが、取得費は被相続人が取得した時点の評価額になります。
取得時点の評価額は、証券会社から送られてくる取引報告書などから調べることができますが、もしわからない場合には、売却した際の収入金額の5%を取得価額とみなし、計算することが可能です。
非上場株式は売却できないことがある
非上場株式は、上場株式のように証券所での売却ができません。つまり、誰でも自由に参入できる公開市場がないため、自分で買い手を探し、価格交渉をして売却する必要があるのです。
したがって、いつまでも買い手が見つからず売却できないケースがありますし、たとえ見つかっても相場より低い金額で買い叩かれるおそれもあります。
そもそも、「譲渡制限」が設けられている株式だった場合は、売却自体ができません。
譲渡制限が設けられているかどうかの確認は、株式を発行する会社に確認できます。売却を考えていることを伝えれば、発行会社が買い取ってくれる可能性もありますので、一度確認されることをおすすめします。
株式の相続でお困りなら専門家へご相談を
株式は、その価値が日々変わる財産であるため、相続の際にも相応の計算が必要になります。またご説明したように、非上場株式の場合はさらに複雑な評価を行わなければなりません。売却もご検討であれば、売却益にかかる税金の算出も必要です。
しかし、税金の申告漏れには罰則が設けられているため、複雑だからといっておろそかにはできません。
そのため、「自分で計算してみたけど、本当に合っているのか不安…」という方は、一度税理士などの専門家へご相談ください。あやふやな状態で申告するよりも、専門家へ依頼して正確な申告・納付を行うことをおすすめいたしま
- この記事の監修者
-
- 協力税理士
- 松尾 大志
- 資格:
- 税理士
- 出身大学:
- 高知大学人文学部
相続は、人生における大きな出来事の一つであり複雑な手続きを伴います。たいせつなひとをお送りしたあとで、一定の期間内に様々な作業を行っていかなければなりません。心労を抱えた中での作業は難しいこともあろうかと存じます。相続税申告に関するご不明な点やご不安な点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。