遺産分割審判とは?遺産分割調停との違いや手続の流れなどのポイントを詳しく解説
このコラムを読まれている方のなかには、遺産分割調停中の方、また調停を利用されたものの話がまとまらなかったという方もいらっしゃるでしょう。
調停で話がまとまらない場合、手続は自動的に「遺産分割審判(いさんぶんかつしんぱん)」へと移行しますが、「話合い」の場である調停とはまったく性質が異なり、審判では法的知識が求められます。
裁判所から通知が来て慌てることのないよう、「遺産分割審判」の概要や調停との違い、手続の流れなどについてあらかじめ知っておきましょう。
- この記事でわかること
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- 遺産分割審判の概要
- 遺産分割調停との違い
- 遺産分割審判を弁護士に依頼するべき理由
「遺産分割審判」とは?
遺産分割審判とは、遺産分割調停で合意が得られなかった遺産分割問題について、家庭裁判所の家事審判制度を利用して解決する手続です。
遺産分割の手続には、遺産分割協議、遺産分割調停、そして遺産分割審判の3つがあり、下記のような流れで進んでいきます。

遺産分割審判の大きな特徴としては、裁判所が遺産分割方法を決めるという点が挙げられます。
遺産分割調停との違い
遺産分割調停と遺産分割審判は、どちらも裁判所を介した手続ですが、何点か違いがあります。
審判でご自身の主張を認めてもらうためには、両者の違いを明確に理解したうえで、万全な準備を行う必要があります。
では、具体的にどのような点が違うのかを下記で詳しく見ていきましょう。
調停は「話合い」、審判は「裁判(訴訟)に近い」
| 遺産分割調停 | 遺産分割審判 | |
|---|---|---|
| 分割方法の決定者 | 当事者 | 裁判官 |
| 調停委員の関与 | あり | なし |
| 相続人全員の出席の要否 | 原則必要 | 一部の相続人が欠席しても進行可 |
| 相続人全員の合意の要否 | 必須 | 不要 |
| 問題の解決方法 | 相続人全員の「合意」による円満解決 | 法律に基づく「裁判官の判断」による解決 |
遺産分割調停では、相続人全員の「合意」による円満解決を目指します。
調停委員が仲介役となって相続人全員から個別に話を聞き、調整を行います。
ただし、あくまでも当事者の「話合い」の場であるため、遺産分割方法について相続人全員が納得・合意しなければ成立しません。よって、相続人のうちの誰か一人が反対した場合には不成立となります。
これに対し、遺産分割審判は「裁判(訴訟)」に近い手続です。
相続人それぞれの主張や証拠に基づいて、裁判所が「このように分ける」という判断を下し、法的に分割方法が確定します。また、相続人の一部が期日に出席しなくても手続を進めることは可能です。
遺産分割調停についてさらに詳しく知りたい方は、以下のページもご覧ください。
審判では「法律に基づいた主張」と「客観的な証拠」が不可欠
審判でご自身の権利が認められるためには、「なぜその分け方が法的に正しいのか」を論理的に説明する「法律に基づいた主張」と、それを裏付ける「客観的な証拠」が重要です。
具体的なケースを挙げて考えてみましょう。
【ケース1】
「生前に父(被相続人)の介護を一人で担ってきたので、その分多く遺産をもらいたい」
調停であれば「大変でしたね」と事情を汲んでもらえることもあるかもしれません。
しかし、審判の場合には、「いつから、どのような介護を、どの程度の期間行ったか」(=寄与分)を具体的に主張し、介護日誌、医療記録、かかった費用の領収書などの証拠で立証する必要があります。
【ケース2】
「兄は生前に父からマイホーム資金(3,000万円)の援助を受けている。不公平だ」
調停の場合、相手が認めれば考慮してもらえる可能性があります。
対して、審判の場合には、父から兄への資金援助が「生前贈与(=特別受益)」にあたることを法律に基づいて主張するだけでなく、生前贈与があったことを証明する銀行の振込履歴や念書などの証拠を提出することが重要です。
ご自身の主張を「法的な言葉」に置き換えたり、それを「客観的な証拠」で証明したりといったことを行うには、法律知識が必須となりますので、相続に詳しい弁護士などに依頼するのがおすすめです。
特別受益、寄与分についてさらに詳しく知りたい方は、以下のページもご覧ください。
遺産分割審判はどう進む?具体的な流れを解説
ここでは、審判が始まってから終わるまでの大まかな流れを4つのステップで解説します。
- 家庭裁判所から「審判手続期日呼出状」が届く
- 主張書面と証拠を提出する
- 審判期日に出席する
- 審判(裁判官による決定)
ステップ1:家庭裁判所から「審判手続期日呼出状」が届く
遺産分割調停が不成立となり、自動的に遺産分割審判へ移行すると、しばらくして家庭裁判所から「第1回審判期日呼出状」や「審判手続期日のご案内」といった書類が、相続人全員に郵送されます。
審判手続期日呼出状には、審判が行われる日時と場所(裁判所の法廷など)が記載されています。
ステップ2:主張書面と証拠を提出する
審判期日に先立って、ご自身の主張をまとめた「主張書面」と呼ばれる書面を作成します。こちらの書面にご自身の主張を裏付ける「証拠」を添付し、家庭裁判所に提出します。
【主張書面に記載する内容】
- 遺産の全体像(どんな財産が、いくらあるか)
- 希望する具体的な分割方法
- なぜその分割方法が妥当なのか、法的な根拠(法定相続分、寄与分、特別受益の主張など)
- 相手方の主張に対する反論 など
【証拠の例】
- 不動産の登記簿謄本、固定資産税評価証明書、不動産鑑定士による評価書
- 預貯金通帳のコピー、取引履歴
- 生前贈与の証拠(振込履歴、契約書、メールなど)
- 寄与分を証明する資料(介護日誌、領収書、親族の陳述書など)
- 遺言書(ある場合) など
裁判官は、書面と証拠を事前に読み込んだうえで審判期日に臨みます。
ステップ3:審判期日に出席する
「第1回審判期日呼出状」で指定された日時に家庭裁判所に行き、審判期日に出席します。遺産分割審判も、遺産分割調停のように一般には公開されず、非公開の審判廷で行われます。
また、遺産分割調停では当事者同士が顔を合わせないよう配慮されるケースが多いですが、遺産分割審判では、裁判官の前に当事者全員(またはその代理人弁護士)が同席して手続が進みます。
期日当日、裁判官は、提出された書面や証拠に基づいて、争点(何について揉めているのか)を整理したり、当事者や弁護士に質問をしたりします。場合によっては、当事者本人への「審問(しんもん)」が行われることもあります。
審判期日は、おおむね1ヵ月〜1ヵ月半に1回程度のペースで設定され、書面のやり取り(こちらが提出→相手が反論書面を提出→こちらが再反論…)を複数回行うことが多いです。
書面での主張・立証が中心となるため、解決までの期間は調停より短くなるケースも多いです。
ただし、争点が複雑な場合は2年以上かかることもあります。
ステップ4:審判(裁判官による決定)
「当事者の主張と証拠がすべて出揃い、判断するために必要な材料は揃った」と裁判官が判断した時点で、手続は「終結」します。
裁判官による最終的な決定、すなわち「審判」が下されたあと、審判の内容が記載された「審判書」が当事者全員に送達されます。
この審判書には、「Aは不動産を取得する」「BはAに対し代償金として〇〇万円支払う」などといった具体的な分割方法が記載されています。
審判書を受け取った翌日から2週間以内に、どちらの当事者からも不服申立て(「即時抗告」といいます)がなければ審判が確定し、これをもって遺産分割問題は最終的に解決となります。
審判でよくある疑問
Q. 遺産分割調停の申立てをせずに遺産分割審判を申し立てることは可能ですか?
遺産分割調停の申立てをせずに遺産分割審判を申し立てることも、制度上は可能です。
ただ、裁判所の判断により調停手続に付されることが一般的です。「相続問題はできるかぎり当事者同士の話合いによって解決することが望ましい」というのがその理由です。
そのため、遺産分割審判をいきなり申し立てるのではなく、まずは遺産分割調停を申立て、調停が不成立となった場合に遺産分割審判に移行するというのが、通常の流れです。
Q. 審判にかかる費用にはどのようなものがありますか?
審判にかかる費用としては、裁判所に納める費用と弁護士費用があります。
裁判所に納める費用
審判で裁判所に納める費用としては下記が挙げられます。
- 申立て費用
- その他の費用(追加郵券、不動産鑑定料、調査嘱託・文書送付嘱託等に係る費用など)
遺産分割調停から自動的に審判へ移行した場合は、調停申立て時にすでに印紙代(収入印紙)を納めているため、審判移行時に追加の印紙代は原則かかりません。
ただし、分割を希望する遺産のなかに不動産があり、当事者間で不動産の評価に争いがあって不動産鑑定が必要な場合は、その鑑定費用がかかることがあります。
弁護士費用
審判にかかわる手続を弁護士に依頼する場合の費用としては下記が挙げられます。
- 相談料
- 着手金(依頼時に支払う費用)
- 報酬金(解決時に成果に応じて支払う費用)
法律事務所の料金体系や、最終的に受け取る遺産の総額、事案の難易度などによって価格が異なってくるため、まずは法律相談を利用して見積もりをもらうようにしましょう。
Q. 審判期日に欠席したらどうなりますか?
審判期日に欠席すると、相手方の主張がそのまま認められ、ご自身にとって不利な内容で審判が下されるリスクが非常に高くなります。
あなたがいなくても審判は進みます。
あなたは、ご自身の権利を主張したり、相手の主張に対して反論したりする機会を放棄したことになるため、相手の主張が認められやすいという側面があるからです。
ただし、弁護士に依頼している場合、弁護士が代理人として期日に出頭しますので、ご自身が裁判所に行く必要は原則としてありません(審問が行われる場合などを除く)。
お仕事などで忙しく、審判期日に出席が難しいと考えられる場合には、あらかじめ弁護士に依頼することをおすすめします。
Q. 審判の結果に従わない相続人がいる場合、どうすればいいですか?
ケースにも寄りますが、審判書に基づいた「強制執行」が可能になります。
審判で確定した「審判書」は、裁判の「確定判決」とまったく同じく、非常に強力な法的効力を持ちます。
もし、審判で「兄は弟に1,000万円支払う」と決まったのに兄が支払わない場合、弟は審判書を使って、兄の預金口座や給与を差し押さえる「強制執行」の手続を取ることができます。
また、不動産についても、「この不動産はAが相続する」という審判が下されれば、ほかの相続人の協力(印鑑証明書の提供など)がなくても、Aさん単独で、審判書を使って法務局で相続登記(名義変更)の手続を進めることができます。
遺産分割審判を弁護士に依頼すべき理由
理由1:法的な主張・立証(証拠集め)が必須
審判では、「寄与分を主張したい」「特別受益があったはずだ」といったご自身の希望を、法律のルールに則って法的に構成し直し、それを証拠で立証する必要があります。
「何を主張すれば裁判官に認められるのか」「そのために、どんな証拠を集めれば有効なのか」を判断するには、相続法に関する高度な専門知識と経験が不可欠です。
相続問題に精通した弁護士であれば、ご自身の状況を法的に分析し、裁判官を納得させるために有効な主張と証拠収集の戦略を立てることができます。
理由2:裁判官を説得する「書面作成」が非常に重要
審判は、期日当日に口頭でやり取りする時間よりも、事前に提出する「主張書面」の内容が勝負を分けます。
裁判官は、この書面を読み込んで「どちらの主張に法的な説得力があるか」を判断します。
事実関係を時系列で整理し、法的根拠を示し、証拠と結びつけながら、裁判官を「なるほど、あなたの主張は法的にもっともだ」と納得させる論理的な書面を作成する作業は、専門家でなければ極めて困難です。
法律知識を身に着けている弁護士であれば、あなたに代わって法的な書面作成を行うことが可能です。
理由3:ほかの相続人が弁護士を立ててくる可能性が高い
調停が不成立になり、審判に移行するとなれば、それまでは自分で対応していた相手方も「これは専門家に頼まなければ難しい」と考え、弁護士に依頼してくるケースが非常に多いです。
相手方が法律のプロである弁護士を立てて、万全の準備で法的な主張や証拠を次々と提出してくるのであれば、あなたご自身も弁護士に依頼するほうが賢明だといえます。
理由4:精神的なストレスや手続の負担から解放される
審判では、複雑な法律書面の作成、証拠集め、裁判所との専門的なやり取り、慣れない法廷への出頭などがあり、日常生活を送りながら対応するには非常に大きな時間的・精神的負担がかかります。
弁護士に依頼すれば、これらの複雑でストレスのかかる手続の多くを任せることができます。 ご自身は弁護士と打ち合わせをするだけでよく、裁判所へ出頭する必要も原則ありません。
精神的な重圧から解放され、ご自身の本業や大切なご家族との生活に集中できることは大きなメリットといえるでしょう。
まとめ
遺産分割審判は、調停のような「話合い」の場ではありません。裁判官が法律と証拠に基づいて分割方法を決定する、厳格な「法的手続」です。
相続人の方がご自身の正当な権利を守り、悔いのない解決を得るためには、法律の専門家である弁護士にサポートしてもらうのが解決への近道です。
弁護士に任せることで、相続問題という重荷から解放され、平穏な日常を取り戻せるはずです。
アディーレ法律事務所なら、遺言・遺産相続に関するご相談は何度でも無料です。
「審判になりそう」「審判の通知が来た」という方は、ぜひお気軽にご相談ください。
- この記事の監修者
-
- 弁護士
- 橋 優介
- 資格:
- 弁護士、2級FP技能士
- 所属:
- 東京弁護士会
- 出身大学:
- 東京大学法学部
弁護士の職務として特に重要なことは、「依頼者の方を当人の抱える法的問題から解放すること」であると考えています。弁護士にご依頼いただければ、裁判関係の対応や相手方との交渉などは基本的にすべて弁護士に任せられます。私は、弁護士として、皆さまが法的な心配をせず日常生活を送れるように、陰ながらサポートできる存在でありたいと考えています。