遺産の相続|疎遠な親族と連絡が取れない?トラブルを防ぐ解決策と手順
身近な方が亡くなり、いざ相続の手続を始めようとした際、「会ったこともない親族がいる」「何十年も連絡を取っていない兄弟がいる」といった壁にぶつかり、途方に暮れてしまう方は少なくありません。
「無視して進めても大丈夫?」「話しにくい人だったよな」と不安になるのも無理はありません。
本コラムでは、疎遠な親族との遺産分割をスムーズに進めるためのステップをわかりやすく解説します。
法的な調査方法から、相手を怒らせない連絡のコツ、話合いが進まない時の対処法までを網羅しました。この記事を読んで、法的なトラブルを避け、心身の負担を軽くしながら手続を完了させる具体的な道筋が見つかれば幸いです。
- この記事でわかること
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- 疎遠な相続人と話し合うための5つのステップ
- 目次
疎遠な親族を無視して相続手続を進めることはできない
長く交流がない親族についても、法律上、相続人としての権利は平等に守られています。たとえ疎遠な親族であっても、無視して相続手続を進めることはできません。
氏名や住所を特定したうえで、相続手続を進める必要があります。
相続人全員の合意のない遺産分割協議は法的に無効
遺言書がない場合、遺産をどう分けるかは相続人全員で話し合って決める必要があります。これを遺産分割協議といいます。
遺産分割協議は、一人でも相続人が漏れていると、基本的に法律上「無効」です。
「あの人と関わりたくないから」などという理由で、特定の相続人に内密で遺産分割協議を行うことはできません。また、相続人の調査が不十分で、相続人が漏れていたといった場合には、遺産分割協議は無効となり、改めて最初からやり直す必要があります。
法的に有効な遺産分割協議を成立させるためには、相続人調査を確実に行って相続人全員を確定し、話合いの輪に加わってもらう必要があります。
ただ、一堂に会して話合いが必要、というわけではありません。たとえば、相続人が遠方に住んでいる場合には、電話やメールなどで話合いを行い、遺産分割協議書に順次署名押印していく形で協議を成立させることができます。
新たな相続人が出ないように注意すべきこと
第一に、相続人の漏れがないように、相続人の調査を慎重に行う必要があります。
また、死後認知により、父親の死亡後に認知された子どもが相続人となるケースがあります。ただし、死後認知のケースでは、遺産分割協議が成立しているときはやり直す必要はなく、新たな相続人に金銭を支払えば済むようになっています(民法第910条)。
いっぽうで、死後に、元配偶者から離婚無効確認訴訟を提起され、離婚が無効とされた場合は注意が必要です。元配偶者は「配偶者」としての相続権をさかのぼって取得するため、既になされた遺産分割協議が無効となる可能性があります。
したがって、このような訴訟が提起されている場合には、訴訟の結果がわかるまで遺産分割協議を保留することも検討しましょう。
疎遠な相続人を放置することで生じるリスク
「面倒だから」と相続手続を放置してしまうと、生活に直結する以下のようなデメリットが次々と発生します
放置せず、粛々と手続を進めていくようにしましょう。
銀行口座の凍結
銀行は全員の合意が確認できるまで、基本的にお金を払い戻してくれません。
ただし、一定額(預金額×3分の1×法定相続分、上限は150万円)については、他の相続人の合意がなくても払い戻せる「仮払い(払戻し)」制度があります。
不動産の処理の停滞
不動産は、遺産分割協議が成立するまで、相続人全員の共有状態になります。
共有状態の不動産には、管理行為(利用やメンテナンス)は持分の価格に従い過半数で決する(民法第252条第1項)、変更行為(解体や売却)は全員の同意が必要(民法第252条の2第1項但書)などの細かいルールがあり、不動産を簡単には処分できません。
税金のペナルティ
相続税の申告には期限があります。被相続人(亡くなった方)の死亡を知った日の翌日から、10ヵ月以内に行う必要があります。
遅れると、本来受けられるはずの税金の優遇措置が受けられなくなる、延滞税といったペナルティが課されるなどのリスクがあり、経済的な損失を被る可能性も考えられます。
連絡先がわからない親族の所在を特定する調査ステップ
相手の住所がわからないときは、まず公的な書類をたどって「今、どこに住んでいるのか」を正確に突き止めることから始めましょう。
被相続人の戸籍謄本を遡って、隠れた相続人の有無を正確に把握する
相続人となる親族は、法律で次のように定められています。
- 常に相続人となる:配偶者
- 第1順位:子(孫)
- 第2順位:両親(祖父母)
- 第3順位:兄弟姉妹(甥姪)
配偶者は常に相続人となります。
第1順位の相続人がいれば、第2順位以下の親族は相続人とはなりません。
第1順位の相続人がいない場合、第2順位の親族が相続人となり、第1順位および第2順位の相続人がいない場合、初めて第3順位の親族が相続人となります。
たとえば、被相続人の親族に配偶者、子、両親、兄弟姉妹がいた場合、相続人になるのは配偶者と第1順位の子のみです。

相続人の調査では、配偶者および第1順位~第3順位の相続人の有無を確定することが目標になります。
まずは、被相続人の「出生から死亡まで」のすべての戸籍謄本を集めます
パズルのピースを埋めるように、被相続人の家系図を遡ることで、本人が把握していなかったかもしれない異母兄弟や、前婚での子ども、亡くなった兄弟の子(甥や姪)といった相続人の存在が浮かび上がってくることがあります。
戸籍の読み取りは少しコツがいりますが、ここで一人でも漏らしてしまうとあとの手続がすべて無効になる恐れがあるため、丁寧な調査が必要です。
戸籍の広域交付制度を利用する
以前は、被相続人が生前本籍地が変わっている場合、変わった本籍地に対して、一つ一つ戸籍を請求する必要がありました。何度も本籍が変わっている場合には、それだけでかなり労力と手間のかかる作業だったのです。
しかし、2024年(令和6年)3月1日、戸籍法の改正により「戸籍広域交付制度」が導入され、戸籍収集は格段に便利になりました。
本籍地が遠くであっても、最寄りの市区町村役場の窓口で請求可能できますし、本籍地が途中で変わっていても、一か所の窓口でまとめて請求できます。


戸籍の附票から現在の住所地を特定し連絡の土台を作る
被相続人の戸籍を遡ることで、相続人の名前や本籍地を把握することができますが、現在の住所まではわかりません。
そこで、次は、相続人の現住所を把握するために、その相続人の本籍地と筆頭者の情報を頼りに、「戸籍の附票(ふひょう)」という書類を取り寄せます。
戸籍の附票には、その本籍地の戸籍作成時点からの住民票上の住所の移り変わりが記録されているため、現在の正確な住所を知ることができるのです。
このステップにより、他の相続人に相続を知らせるための「宛先」を確定させ、解決へのスタートラインに立つことができます。
感情的トラブルを回避する「最初の手紙」の戦略的な書き方
疎遠な親族に対して、いきなり「お金の話」をすると相手は警戒してしまうかもしれません。最初のアプローチは、慎重かつ丁寧に行うのがポイントです。
電話や訪問ではなく「書面」で伝える
面識のない相手や疎遠な相手には、電話や突然の訪問は避けましょう。相手にとっては「身に覚えのない突然の訪問」となり、恐怖や拒絶反応を与えてしまうからです。
まずは丁寧な「お手紙」を送るのが鉄則です。手紙なら相手も自分のペースで内容を確認し、落ち着いて考えることができます。
まずは被相続人が亡くなったこと、相手が相続人となること、自分が誰なのかを簡潔に伝え、安心感を持ってもらうことを優先しましょう。
透明性の高い情報開示を行い誠実な態度を示す
お手紙には、現在わかっている遺産の内容(財産目録)を簡単に示すこともあります。
「何か隠して自分だけ得をしようとしているのでは?」という疑念を抱かせないためです。
一方的に「遺産分割協議書を送りますので該当箇所に押印してください」と迫るのではなく、「このように進めていきたいと考えておりますが一度ご意向を伺えればと思います」という控えめな姿勢を示すことで、信頼関係を築きやすくなるでしょう。
疎遠な相続人と円滑に遺産分割を成立させるポイント
話合いを長引かせないためには、相手が「それなら納得できる」と思える公平な提案をすることが大切です。
相手に選択肢があることを明確に伝える
被相続人と疎遠な相続人の場合、「相続問題に関わりあいたくない」「遺産はいらない」というケースもあります。
相続が始まると、何もしなければ、相続人は相続財産を引き継ぐことになりますが、「一切引き継がない」と拒否することもできます。これを「相続放棄」といいます。
相手は、もしかしたら「相続問題に関わりあいたくない」と思っているかもしれませんし、逆に「法律上の権利ならもらいたい」と思っているかもしれません。
いずれにしろ、「相続放棄前提」「相続すること前提」で話をするのではなく、「こういう選択肢もある」「どの選択をするかは自由」であることを、丁寧にわかりやすく伝えるとよいでしょう。
法定相続分をベースにした公平で納得感のある分割案を提示する
相手が相続放棄を選択しない場合、トラブルを防ぐ近道は、法律で決められた目安である「法定相続分」を基準に遺産分割を提案することです。

「自分は疎遠な親族より、被相続人と親密だった」「ずっと介護をしていたから多めにもらう」といった個別の事情を強く主張しすぎると、相手は「不公平だ」と反発してしまいます。
法律という「客観的なルール」を基準にし、個別事情がある場合には「配慮していただければ幸い」というスタンスで交渉に臨むと、相手も納得しやすくなり、スムーズな合意につながりやすくなります。
相手が手続に協力するメリットを明確に伝え心理的な壁を取り払う
相手にも、生活や仕事など、相続手続を後回しにしてしまう理由があるかもしれません。
返信をしてもらうためには、「遺産分割協議には相続人全員の合意が必要であること」と、「遺産分割協議の成立には相手にもメリットがあること」を伝えるのが効果的です。
「このまま放置すると、さらに相続が生じて手続が複雑になりかねない」「手続を済ませれば、こちらの現金を分配できます」といった事実を、簡潔に伝えましょう。
相手の心理的なハードルを下げ、「面倒なことになる前に終わらせよう」「メリットがあるなら早く進めよう」と思ってもらう工夫が必要です。
連絡の無視や拒否が続いた場合の家庭裁判所を通じた解決策
どれだけ丁寧に手紙を送っても返事がなく連絡が取れない場合や、相続人が多すぎて合意を得るのが難しい場合などでは、無理に個人で動かず、法律の枠組み(裁判所)を利用しましょう。
遺産分割調停を申し立てて裁判所の関与の下で話し合いを進める
連絡が取れない、あるいは拒否される場合などでは、家庭裁判所に「遺産分割調停」を申し立てる方法があります。
これは、裁判所の調停委員が間に入って話合いを整理してくれる手続です。中立的な第三者が介入することで感情的なぶつかり合いを抑え、冷静に話をすすめられます。
もし、相手が最後まで調停を無視し続けて出廷しなかったとしても、最終的には「審判」という形で裁判官が結論を出してくれるため、確実に相続手続を完了させることができます。
遺産分割調停について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
相手の所在が不明な場合は「不在者財産管理人」の選任を検討する
従前の住居所を去った者のことを、「不在者」といいます(民法第25条第1項)。住所が突き止められない「行方不明」の場合や、「生死不明」の場合も含まれます。
このような場合には、裁判所に「不在者財産管理人」を選んでもらうための申立てを行います。
この管理人が本人の代わりに話合いに参加してくれるため、手続を止めることなく進めることが可能です。
話合いが困難だと思われる状況でも、あきらめずに、弁護士にご相談ください。状況を打破するために力となってくれるはずです。
相続問題に一切関わりたくない場合の「相続放棄」という選択
もし「遺産はいらないから、とにかく親族との関わりを断ちたい」と強く願うなら、相続放棄という選択肢もあります。
相続放棄をすれば、遺産分割協議に参加する必要はない
相続放棄とは、「最初から相続人ではなかったこと」にする手続です。
これが認められれば、相続人ではありませんので、遺産について他の親族と話合いをする必要は一切なくなります。
また、もし亡くなった方に多額の借金があったとしても、それを引き継ぐ心配がありません(逆に、プラスの遺産ももらうことはできません)。
煩わしい人間関係や将来の不安から身を遠ざけ、ご自身やご家族の平穏な生活を守るための有効な手段です。
「知った時から3ヵ月以内」という厳格な期限に注意する
ただし、相続放棄には「相続の開始を知った日から3ヵ月以内」という非常に短い期限があります。 疎遠な親族の訃報を聞いてから「どうしようかな」と悩んでいる間に、期限が過ぎてしまうかもしれません。期限を過ぎると、原則として借金なども含めてすべて引き継ぐことに同意した(単純承認)とみなされてしまうため、早めの決断と準備が重要です。
相続放棄の手続について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
疎遠な親族との相続問題を弁護士に依頼するメリット
相続手続は、相続人同士が顔見知りで、話しやすい関係であったとしても、時間と労力、ストレスのかかる作業です。疎遠な親族と共同で行わなければならないとなると、心労が重なることもあります。
そんなときは、相続手続を弁護士に任せることで、時間と心の余裕を取り戻すことができるでしょう。
必要書類の収集を任せられる
弁護士は、依頼者から受任した事件について、法律で認められた権限により戸籍などの調査を行うことができます。
ご自身で何通もの戸籍を集めて遡り、手書きの古い文字を解読して、相続人となる親族を探して確定するのは慣れていないと大変な労力です。
弁護士に任せることで、漏れやミスのない正確な調査をスピーディーに行うことができ、手続きのやり直しという二度手間を避けられるでしょう。
親族と直接やり取りするストレスが軽減される
最大のメリットは、疎遠な親族と「直接話さなくて済む」ことです。
弁護士があなたの窓口(代理人)となるため、相手からの心ない言葉を直接聞くことも、過去の確執に悩まされることもありません。
弁護士が淡々と、かつ誠実に交渉を進めることで、相手方も冷静になりやすく、結果として早期解決につながる可能性が高まります。
また、裁判手続を利用する際も、基本的に弁護士が書面や資料を準備して手続を進めていきますので、安心して任せることができるでしょう。
まとめ
疎遠な親族であっても、「相続人全員参加で遺産分割協議を行う」というルールを無視して進めることはできません。
大変かもしれませんが、放置することはできませんので、一つ一つ問題を解決して進めていきましょう。
まずは戸籍調査で相続人の名前と住所を把握し、誠実なアプローチから始めてみましょう。もし「自分一人では不安」「相手と話したくない」と感じられたら、一人で悩まず、一度弁護士にご相談ください。
アディーレ法律事務所では、相続問題や相続放棄について、ご相談をお受けしております。
複雑な親族調査から交渉まで、皆さまの不安を安心に変えるお手伝いをいたしますので、まずは無料相談で、今のお悩みを聞かせていただけませんか。
- この記事の監修者
-
- 弁護士
- 橋 優介
- 資格:
- 弁護士、2級FP技能士
- 所属:
- 東京弁護士会
- 出身大学:
- 東京大学法学部
弁護士の職務として特に重要なことは、「依頼者の方を当人の抱える法的問題から解放すること」であると考えています。弁護士にご依頼いただければ、裁判関係の対応や相手方との交渉などは基本的にすべて弁護士に任せられます。私は、弁護士として、皆さまが法的な心配をせず日常生活を送れるように、陰ながらサポートできる存在でありたいと考えています。