遺産分割協議に参加したくないけれどデメリットはある?トラブルを防ぐ対処法
遺産分割協議は、相続人全員による遺産の分割方法や取り分についての話合いのことです。
家族が亡くなったときに必要な相続手続の一つですが、「遺産に興味はないから関わりたくない」などの理由で遺産分割協議に参加したくないと考える方もいらっしゃるでしょう。
しかし、遺産分割協議への参加を拒否し続けた場合、思わぬトラブルに発展し、かえってご自身の負担が大きくなってしまう可能性があります。
そこで、本コラムでは、遺産分割協議に参加しないことのデメリットや、遺産分割協議に参加しなくても相続手続を進められる方法を解説します。
- この記事でわかること
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- 遺産分割協議の概要
- 遺産分割協議に参加しないデメリットと起こりうるトラブル
- 遺産分割協議に参加せずに相続手続を進める方法
- 目次
遺産分割協議とは
遺産分割協議とは、被相続人が残した遺産を「誰がどの財産をどれだけ相続するのか」について、相続人全員で話し合う手続です。
遺産分割協議が必要となるのは、下記のような場合です。
- 相続人が2人以上いるとき
- 遺言書がないとき
- 相続人全員が遺言書に従わないこととしたとき
遺産分割協議を行えば、法律で定められた相続分(法定相続分)に従う必要はなく、相続人同士の合意によって自由に遺産分割方法や割合を決められます。
話合いで相続人全員が合意に至ったら、その合意内容をまとめた「遺産分割協議書」という書類を作成します。この遺産分割協議書には、相続人全員が署名と実印の押印が必要です。
遺産分割協議書についてさらに詳しく知りたい方は、以下のページもご覧ください。
遺産分割協議に参加しないデメリットと予想されるトラブル
遺産分割協議に参加しなかった場合のデメリットと予想されるトラブルには下記のようなものがあります。順番に解説していきます。
- 相続税申告の期限が守れない
- 遺産の名義変更ができない
- トラブルが深刻化する
- 遺産分割調停・審判に発展する可能性がある
- 不利な立場になる可能性がある
デメリット1. 相続税申告の期限が守れない
相続人の一部が遺産分割協議に参加しない場合、相続人全員の意思が確認できないため手続を進められません。
この状態が続くと、相続税の申告期限に間に合わなくなるリスクがあります。
相続税の申告期限は、「被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヵ月以内」と決められています。
期限を過ぎると下記のような不利益を被る可能性があります。
- 相続税の軽減を受けられる特例を利用できなくなる
- 無申告加算税や延滞税が課せられる
- 放置し続けると国に財産を差し押さえられてしまう
遺産分割協議が終わっていない場合でも相続税の申告自体は可能です。
ただし、多めに税金を納めたうえで、あとから納めすぎた税金の還付を受けなければならないなどの手続が必要となり、余計な手間がかかってしまいます。
相続税の申告についてさらに詳しく知りたい方は、以下のページもご覧ください。
デメリット2. 遺産の名義変更ができない
不動産の名義変更、預貯金の解約といった相続手続には、原則として遺産分割協議書が必要です。
遺産分割協議をしないと、相続財産は相続人全員の共有のままであるため、相続人全員の同意がなければ活用したり売却したりすることができません。
たとえば、相続人のうちの数人が共有の状態である土地を売却したいと思っても、相続人の一人が反対すればできない可能性が高いのです。
デメリット3. 遺産分割協議がさらに複雑になる
遺産分割協議をしないで時間が過ぎてしまうと、相続人の誰かが亡くなってしまうことがあります。
そのような場合、権利関係者が増えたり、被相続人と関係性の薄い人が相続人になって、遺産分割協議がさらに複雑になってしまったりするおそれがあります。
デメリット4. 遺産分割調停・遺産分割審判に移行する可能性がある
長期間、遺産分割協議ができない状態が続いた場合、ほかの相続人が家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てる可能性があります。
遺産分割調停とは、遺産の分割に関して裁判官や調停委員を通して話合いを行う手続です。
通常、1〜2ヵ月に1回のペースで数回行われ、解決までには最短でも半年程度かかります。
長引くと数年かかることもあります。
さらに、調停で話がまとまらなければ、遺産分割審判に移行します。
遺産分割審判とは、諸々の事情を考慮したうえで裁判所が遺産の分割方法を決定する手続です。
遺産分割調停を申し立てることなくいきなり遺産分割の審判を申し立てることも可能ですが、通常は、まずは遺産分割調停に付され、調停が不成立の場合に遺産分割審判へと移行されます。
遺産分割協議に参加したくないと考える理由
遺産分割協議に参加したくない方に共通する理由は、下記のようにさまざまです。
- 親族間に過去のトラブルや感情的な対立がある
- 面識のない親族の相続人になってしまった
- 遺産よりも負債が大きいことが予想される
- 遠方に住んでいて協議に参加するのが難しい
- 相続手続そのものが複雑で対応するのが大変
- 既に親族間で揉めており、話合いが困難な状況
感情的な問題や、手続の複雑さを面倒に感じることから遺産分割協議への参加をためらう方が多いようです。
ただ、遺産分割協議への参加依頼に対応せずに無視していると、上記でご紹介したようないろいろなトラブルが起きてしまいます。
そこで、次の章では、「遺産分割協議に参加したくないけれど、相続手続はスムーズに進めたい」とお考えの方々に有効な解決法をご紹介します。
【状況別】遺産分割協議に参加せずに相続手続を進める方法
ここでは、下記の3つの状況別に「遺産分割協議に参加しないで相続手続を進める方法」をご紹介します。
- 「遺産は一切要らない」という場合
- 「遺産は欲しいが遠方に住んでいるため参加が難しい」という場合
- 「親族間で揉めていて進まないため、遺産分割協議に参加したくない」という場合
「遺産も負債も一切要らない」という場合
「プラスの財産もマイナスの財産(借金)も一切引き継がず、相続関係から完全に離脱したい」とお考えなら、「相続放棄」がおすすめです。
相続放棄とは、プラスの財産(預貯金など)・マイナスの財産(借金など)にかかわらず、一切の財産について相続を拒絶し、相続人の地位を捨てる手続です。
【相続放棄を選択する主なメリット】
- 相続手続に関わる必要がなくなる
- ほかの相続人との話合いから解放される
- 借金などの負債を引き継がなくて済む
【相続放棄の注意点】
- 「相続開始を知った日から原則3ヵ月以内」という期限がある
- 相続放棄の手続にはいろいろな書類が必要で複雑
相続放棄についてさらに詳しく知りたい方は、以下のページもご覧ください。
「遺産は欲しいが遠方に住んでいるため参加が難しい」という場合
「遺産は欲しいけれど、遠方に住んでいるので遺産分割協議に参加するのは難しい」という方の場合には、「郵送や電子メールを活用した書面による遺産分割協議」を検討しましょう。
遺産分割協議は、必ずしも全員が一同に集まって対面で話し合う必要はありません。
法律的には、遺産分割協議書に全相続人の署名と実印による押印が揃えば有効となります。
【書面による遺産分割協議のメリット】
- 対面での話合いを避けることができる
- 遠方に住んでいても手続が可能
- 自分のペースで協議書の内容を検討できる
【書面による遺産分割協議の注意点】
相続人全員の合意が必要であるため、もし意見が対立する場合には改めて話合いが必須となる
「既に親族間で揉めており、話合いが進まない」という場合
相続人である親族の間で揉めていて話し合いが進まないなら、「家庭裁判所への遺産分割調停の申立て」を行うことをおすすめします。
トラブルに巻き込まれたくないなら早めの対応がおすすめ
遺産分割協議には、法律上の期限は特にありません。
ただし、税務上の期限や実務上の問題が生じるため、早期に手続をされることおすすめします。
特に、相続税が発生する可能性がある場合は、原則として申告期限までに協議を成立させる必要があるため、早めの対応が必要です。
このように、遺産相続が発生したのに何もしないまま放置することは大きなリスクを伴います。
「遺産分割協議に参加したくないけれど、トラブルは避けたい」という方は、まず下記のような内容を確認しましょう。
ご自分の状況や希望について整理する
遺産を相続したいのか、一切相続したくないのか、親族との関係性はどうか、といった点を明確にしましょう。
必要な手続の内容や期限を確認する
相続放棄の手続には、「相続開始を知った日から3ヵ月以内」という期限があります。
期限を過ぎてしまうと手続ができなくなってしまうので注意しましょう。
また、相続税の申告期限は「被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヵ月以内」となっていますが、期限までに遺産分割協議を完了させて話し合った内容を遺産分割協議書にまとめる必要があります。
予想以上に時間や手間がかかるため、早急に行動することが大切です。
弁護士などに相談する
弁護士や司法書士に早めに相談することで、あなたに適切な手続を知ることができます。
どのような対応が適切かは、あなたの置かれている状況によって異なります。
お一人で悩まず、ぜひ遺産相続に詳しい弁護士にご相談ください。
遺産分割協議に関するよくある質問
Q.遺産分割協議をしなくてもいい場合はあるのでしょうか?
あります。
遺産分割協議はすべての相続で必要なわけではありません。
遺産分割協議をしなくてもいいケースは、主に下記の4つです。
- 相続人が1人の場合
- 法定相続分にしたがって遺産を分ける場合
- 法的に有効な遺言書がある場合
- 遺産が預貯金・現金しかない場合(※金融機関次第)
相続人が1人の場合
相続人が1人の場合には、相続人が単独で遺産のすべてを相続することになるため、遺産分割協議を行う必要はありません。
法定相続分にしたがって遺産を分ける場合
法定相続分に従って遺産を分割することに相続人全員が合意しているのであれば、遺産分割協議を行う必要はありません。
法的に有効な遺言書がある場合
被相続人が法的に有効な遺言書を作成していた場合、原則として遺言書の内容に従って相続が行われます。
そのため、遺言書の内容がはっきりしていて、相続人全員が遺言書の内容に同意している場合は、遺産分割協議を行う必要がありません。
なお、下記のような場合には、遺産分割協議を行っても問題ありません。
- 遺言書が遺留分を侵害している場合
- 遺産分割協議を行うことに相続人全員が同意している場合
遺産が預貯金・現金しかない場合
遺産が預貯金や現金のみで、不動産などの資産がない場合、金融機関によっては、遺産分割協議書の代わりに所定の相続手続書類を作成することで、遺産分割協議の実施や遺産分割協議書の作成を簡略化できることがあります。ただし、金融機関によって異なるため、遺産分割協議書の要否について事前に確認する必要があります。
Q. 遺産分割協議書に署名・押印してしまっても、あとから変更できますか?
いいえ、できません。
遺産分割協議書に署名・押印することは、その内容に同意することを意味します。
内容をよく理解せずに押印してしまうと、あとで「内容に納得できない」と主張しても、原則として覆すことはできません。
特に郵送で協議書が送られてきた場合には、下記のポイントをしっかり確認するようにしましょう。
自分の相続分が正しく記載されているか
ほかの相続人の分割額と比較して、法律上の相続分や遺言の内容と合致しているか確認します。
相続対象の遺産が正しく列挙されているか
見落とされた遺産はないか、隠された資産がないか確認します。
マイナスの財産(借金など)についての詳細が記載されているか
誰が負債を負担するのかが明確に記載されているか確認します。
不明な点はないか
不明な点や納得できない部分があれば、協議書の返送前に必ず質問・修正を依頼します
まとめ
相続人が複数いて遺産分割についての話合いが必要な場合、相続人全員で遺産分割協議を行わなければいけません。
相続人の方々のなかには、遺産分割協議への参加をためらっている方もいらっしゃるでしょう。
ただ、遺産分割協議に参加したくないからと放置しておいた場合、のちのちトラブルに巻き込まれるおそれがあります。
そのような事態に陥らないためにも、必要な情報を知り、ご自身の状況に合わせて適切に対応するようにしましょう。
もしご自身での対応が難しい場合には、早めに弁護士に相談するのも一案です。
アディーレ法律事務所なら、遺言・遺産相続に関するご相談は何度でも無料です。
「遺産相続でトラブルに巻き込まれたくない」とお考えであれば、まずは一度ご相談ください。
- この記事の監修者
-
- 弁護士
- 橋 優介
- 資格:
- 弁護士、2級FP技能士
- 所属:
- 東京弁護士会
- 出身大学:
- 東京大学法学部
弁護士の職務として特に重要なことは、「依頼者の方を当人の抱える法的問題から解放すること」であると考えています。弁護士にご依頼いただければ、裁判関係の対応や相手方との交渉などは基本的にすべて弁護士に任せられます。私は、弁護士として、皆さまが法的な心配をせず日常生活を送れるように、陰ながらサポートできる存在でありたいと考えています。