遺産分割協議とは?進め方や守るべきルール、話がまとまらないときの対処法を解説
大切なご家族が亡くなり、悲しみが癒える間もなく直面するのが「相続」の手続です。 預貯金の解約や不動産の名義変更を行おうとして、「遺産分割協議書が必要です」と言われ、戸惑っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
「遺産分割協議」という言葉は難しそうに聞こえますが、「家族みんなで、誰がどの財産をもらうか話し合うこと」です。
しかし、この話合いには守るべきルールがあり、間違えてしまうと手続が無効になったり、思わぬトラブルに発展したりすることがあります。
本コラムでは、遺産分割協議の流れについてわかりやすく丁寧に解説します。
また、協議がまとまらなかった場合の対処法についても紹介しています。円満な解決への第一歩として、ぜひお役立てください。
- この記事でわかること
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- 遺産分割協議の進め方
- 遺産分割協議のルール
- 遺産分割協議がまとまらなかった場合の対処法
- 目次
遺産分割協議とは?
「遺産分割協議(いさんぶんかつきょうぎ)」とは、亡くなった方(被相続人)が残した財産について、「誰が、何を、どれだけ受け継ぐのか」を決める話合いのことであり、相続人全員の参加が必要です。
「遺言書」がある場合、原則、遺言書の内容が優先されるため、遺産分割協議は不要です。
しかし、遺言がない場合や、遺言に記載されていない財産がある場合は、遺産分割協議を行う必要があります。
遺産分割については、民法で「法定相続分(法律で定められた取り分)」という目安が決まっています。
ただし、必ずしもこのとおりに分ける必要はなく、相続人全員が納得していれば、「長男が家を継ぐ代わりに、預金は次男へ」、「母の生活を守るために、すべての財産を母へ」といったように、自由に分け方を決めることができます。
この「相続人全員の合意」を形成するプロセスが、「遺産分割協議」です。
遺産分割協議の流れ
分割協議には、大きく分けて下記の4つのステップがあります。
- 「調査・確認」:スムーズな遺産分割協議のための準備を行う
- 「話合い」:準備した資料をもとに遺産の分け方を話し合う
- 「協議書作成」:話合いがまとまったら「遺産分割協議書」を作成する
- 「名義変更」:締結した協議書に従って各財産の名義変更を行う
それぞれのステップについて、詳しく見ていきましょう。
ステップ1「調査・確認」編
遺産分割協議をスムーズに進めるための調査・確認を行います。
土台となる事実関係が間違っていると、話し合った内容が無効となってしまうからです。
「誰と」「何を」分けるのかを確定させるためにやるべきことを解説していきます。
遺言書があるか確認をする
最初に行うのは、亡くなった方が「遺言書」を残しているかの確認です。
もし有効な遺言書があれば、原則としてその内容に従って遺産を分けるため、遺言書に分割方法が指定された財産についての話合いは不要です(遺言書に分割方法が指定された財産は、原則として遺産分割協議の対象から除外されます)。
「遺産分割協議を行う必要があるのか」「どの財産について話し合うべきか」を判断するために、遺言書の有無の確認は最優先事項です。
自宅の金庫や仏壇だけでなく、公証役場や法務局(自筆証書遺言書保管制度を利用している場合)にも問い合わせてみましょう。
相続人を確定させる
次に、「誰が相続人なのか」を法的に確定させます。これには、亡くなった方の出生から死亡までの連続した戸籍謄本をすべて取得して確認します。
「家族構成はわかっているから大丈夫」と思われるかもしれませんが、実はこれだけでは不十分です。
なぜなら、過去の戸籍を遡ることで、「前の配偶者との間に子どもがいた」、「認知していた子どもがいた」といった、家族も知らなかった相続人の存在が判明することがあるからです。
もし、相続人が一人でも欠けた状態で協議を行うと、その遺産分割協議は無効となり、最初からやり直しになってしまいます。このようなことを防ぐために、戸籍による厳密な調査が不可欠です。
すべての財産を調べる
「誰と」が決まったら、次は「何を」分けるかです。亡くなった方の財産をすべて洗い出し、「財産目録」を作成して全体像を把握しましょう。
調査すべきなのは、預貯金、不動産、株式、自動車などの「プラスの財産」だけではありません。
借金や住宅ローン、未払いの税金などの「マイナスの財産(負債)」も相続の対象となるため、これらについてもしっかり調査する必要があります。
財産目録を作成しておくと、話合いの際に「何がどれだけあるか」が一目でわかり、話合いがスムーズに進行します。
また、財産目録はのちの相続税申告や名義変更の手続でも役立ちます。
ステップ2「話合い」編
準備が整ったら、いよいよ具体的な話合いのスタートです。
実際の話合いで守るべきポイントを見ていきましょう。
相続人が全員参加して話合いをする
繰り返しになりますが、遺産分割協議には相続人全員の参加と合意が絶対条件です。 「仲が悪いから」、「遠方に住んでいるから」といって一部の相続人を除外することはできません。
ただし、「全員が一堂に会する」必要はありません。電話やメール、手紙、LINEやビデオ通話など、全員が意思疎通を図れて、合意できる方法であれば形式は問われません。
なお、認知症などで判断能力がない相続人がいる場合には「成年後見人」、未成年者がいる場合には「特別代理人」、行方不明者がいる場合には「不在者財産管理人」を選任するなど、必要であれば法的な手続を経て代理人を立てましょう。
遺産の分割方法
話合いでは、誰がどの財産を取得するかを決めます。
民法が定める「法定相続分」はあくまで公平な分割の目安です。
相続人全員が納得しているのであれば、「長男が事業を継ぐので多めに」、「介護をしてくれた長女に手厚く」などのような分け方で構いません。
「特別受益」と「寄与分」に注意する
公平な話合いのために知っておきたいのが「特別受益」と「寄与分」です。
特別受益(とくべつじゅえき)
生前にマイホーム資金や留学費用などを出してもらった相続人がいる場合、それを遺産の前渡しとみなして計算すること
寄与分(きよぶん)
被相続人の介護を一身に担ったり、家業を無償で手伝ったりして財産の維持・増加に貢献した相続人がいる場合、その分を上乗せすること
上記を考慮せずに形式的に分けると、不公平感が生まれてトラブルの原因になることがあります。
特別受益や寄与分についてさらに詳しく知りたい方は、以下のページもご覧ください。
ステップ3「協議書作成」編
話合いがまとまったら、その結果を必ず書面に残します。これが「遺産分割協議書」です。
遺産分割協議書の必要性
口約束でも合意は成立しますが、書面に残さないとあとで「言った・言わない」のトラブルになりかねません。
また、不動産の所有権移転登記(名義変更)や、銀行預金の解約・払戻し手続を行う際には、法務局や金融機関から遺産分割協議書の提出を求められます。
遺産分割協議書は、手続を進めるための「パスポート」のような役割を果たす重要な書類です。
遺産分割協議書に盛り込むべき必須項目
遺産分割協議書には決まった書式はありませんが、以下の内容は必須です。
- 被相続人の特定(氏名、死亡日、最後の本籍地など)
- 相続人全員の特定(話合いに参加した人)
- 財産の特定(「〇〇銀行××支店の預金すべて」「所在〇〇の土地」など具体的に)
- 分割の内容(誰が、どの財産を、どのように取得したか)
- 日付(合意した日)
- 相続人全員の署名と実印の押印(印鑑証明書を添付)
特に重要なのが「実印」の押印です。実印と比較して認印の場合、ほかの相続人から、遺産分割協議が無効であると主張されるリスクがあります
また、金融機関や法務局でも実印の押印を欠いた遺産分割協議書では手続が進められなかったり、遺産分割協議書が相続人ら本人の意思に基づいて作成されたものであることを証明するために、相続人ら全員分の「印鑑証明書」の添付を求められたりする場合がほとんどです。
公正証書にするメリット
一部の相続人がほかの相続人に対して金銭を支払う約束をした場合や、後日トラブルが発生しそうな場合などには、公証役場で「公正証書」として作成するのも一案です。
公正証書にしておけば、万が一支払いが滞ったときに、裁判を起こさなくてもすぐに強制執行(差押えなど)ができるようになります。
強力な法的効力を持たせたい場合には、公正証書の作成を検討することもおすすめします。(参照:日本公証人連合会 koshonin.gr.jp)
遺産分割協議書についてさらに詳しく知りたい方は、以下のページもご覧ください。
ステップ4「名義変更」編
完成した遺産分割協議書を持参して、各財産の名義変更などを行います。
【手続の具体例】
- 不動産(土地・建物):管轄の法務局での相続登記の申請
- 預貯金:各銀行・郵便局の窓口での解約・払戻し手続
- 自動車:管轄の陸運局(運輸支局)での名義変更手続
- 株式:証券会社での口座移管などの手続
いずれの手続でも、作成した遺産分割協議書(原本)に加えて、「相続人全員の印鑑証明書」、「被相続人と相続人の戸籍謄本一式」などがセットで必要です。
注意しなければならないのは、法務局や銀行の窓口は基本的に「平日の日中」しか開いていない点です。
役所での書類集めも含めると、お仕事をされている方は有給休暇を何回も取るなど、スケジュールの調整が必要となります。
相続人の方ご自身で動くのが難しい場合は、弁護士などの専門家に依頼することも検討しましょう。
相続税が発生する場合の望ましい遺産分割協議のスケジュール
遺産分割協議そのものには、「いつまでに話合いを終えなければならない」という法的な期限はありません。
ただし、相続税が発生する場合には、「被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10ヵ月以内」に申告・納付が必要です。
この際、相続税の申告書を提出しますが、申告書作成に至るまでに行うべきことは非常に多いです。
【申告書作成にあたって行うべきこと】
- 財産評価: 土地、建物、自社株などの評価
- 必要書類の収集: 銀行の残高証明書、戸籍謄本、不動産登記簿など
- 特例適用の判定: 「小規模宅地等の特例」や「配偶者の税額軽減」の適用の可否
- 相続税の申告書の作成・製本
- 納税資金の準備: 現金納付が原則 など
また、相続税申告書の作成自体は税理士に依頼できるとしても、「1週間で作成してほしい」などと依頼することは難しいです。
こうした事情を考慮した場合、遺産分割協議成立から申告・納付までのスケジュールは、下記のように考えておくのが望ましいといえます。
| 時期 | やること | 状況 |
|---|---|---|
| 〜6・7ヵ月目 | 遺産分割協議の成立 | ここまでに話合いをまとめ、「遺産分割協議書」に実印を押すのが望ましいです。 |
| 7〜9ヵ月目 | 申告書の作成・確認 | 確定した分割内容に基づき、正確な税額を計算し、申告書を作成します。 |
| 9〜10ヵ月目 | 申告・納税 | 余裕を持って税務署へ提出し、金融機関で納税を済ませます。 |
相続税の申告・納付についてさらに詳しく知りたい方は、以下のページもご覧ください。
遺産分割の4つの方法
遺産分割の方法には4つの方法があります。それぞれの特徴をよく理解したうえで、ご自身の状況に最適な方法を選択することが大切です。
| 分割方法 | 内容 |
|---|---|
| 現物分割 (げんぶつぶんかつ) | 財産を現物のまま相続人間で分ける方法。 一般的で分かりやすい方法だが、財産ごとの価値に差がある場合、公平に分けるのが難しく、もめる可能性がある。 |
| 代償分割 (だいしょうぶんかつ) | 一部の相続人が特定の財産を取得する代わりに、財産を取得しないほかの相続人に対して「代償金(現金)」を支払う方法。 特定の財産を取得する相続人に現金の支払能力が必要。 |
| 換価分割 (かんかぶんかつ) | 財産をすべて売却し、売却代金を相続人間で分ける方法。 きれいに1円単位まで公平に分けられるのがメリットだが、売却の手間や手数料、譲渡所得税がかかるのが難点。 |
| 共有分割 (きょうゆうぶんかつ) | 「実家の土地建物を兄弟3人の共有名義にする」というように分ける方法。 法定相続分に応じて公平に分けられるものの、将来その不動産を売ったりする場合に共有名義人全員の同意が必要になる。 そのため、トラブルの先送りになりがちであり、あまり推奨されない。 |
遺産分割の方法についてさらに詳しく知りたい方は、以下のページもご覧ください。
遺産分割協議がまとまらなかった場合の対処法
遺産分割協議で話がまとまらなかった場合には、家庭裁判所の手続を利用します。

遺産分割調停
家庭裁判所に「遺産分割調停(ちょうてい)」を申し立てます。
調停委員が間に入り、解決に向けた話合いをサポートしてくれる制度です。
当事者が直接顔を合わせずに、交互に意見を伝える形で進められるため、冷静に話合いができるメリットがあります。
遺産分割調停についてさらに詳しく知りたい方は、以下のページもご覧ください。
遺産分割審判
調停でも合意に至らない場合は、自動的に「遺産分割審判(しんぱん)」に移行します。
審判では、当事者の話合いではなく、裁判官が相続人の主張や証拠などを考慮のうえ、法律に基づいて遺産の分け方を決定します。
審判が下されたら、その決定内容に従わなければなりません。
遺産分割審判について詳しくは下記の記事をご覧ください。
遺産分割協議でお悩みならアディーレへ
遺産分割協議は、法律の知識だけでなく、感情のコントロールや粘り強い交渉が必要となる大変な作業です。
「もめてしまって進まない」 と感じたら、それは専門家へ相談するタイミングかもしれません。
弁護士であれば、代理人としてほかの相続人との交渉窓口になれるほか、戸籍収集や遺産分割協議書の作成などもサポートできます。
また、アディーレ法律事務所では、遺産相続に関するご相談は何度でも無料です。
さらに、アディーレ独自の「損はさせない保証」により、ご依頼いただいたにもかかわらず成果を得られなかった場合、原則としてお客さまの経済的利益を超える費用をお支払いいただくことはありません(※)。
遺産分割協議でお悩みの方は、まずはアディーレ法律事務所にご連絡ください。
- ※ 委任契約の中途に自己都合にてご依頼を取りやめる場合、成果がない場合にも解除までの費用として、事案の進行状況に応じた弁護士費用等をお支払いいただきます。
- この記事の監修者
-
- 弁護士
- 橋 優介
- 資格:
- 弁護士、2級FP技能士
- 所属:
- 東京弁護士会
- 出身大学:
- 東京大学法学部
弁護士の職務として特に重要なことは、「依頼者の方を当人の抱える法的問題から解放すること」であると考えています。弁護士にご依頼いただければ、裁判関係の対応や相手方との交渉などは基本的にすべて弁護士に任せられます。私は、弁護士として、皆さまが法的な心配をせず日常生活を送れるように、陰ながらサポートできる存在でありたいと考えています。