遺言・遺産相続の弁護士コラム

親の離婚で疎遠になっても子どもは相続人|相続放棄の方法やよくある質問

「子どものころに両親が離婚して以来、疎遠になっていた父親が亡くなったという連絡がきた。父親は再婚していたらしいけど、自分も相続人になる?」

両親の離婚がきっかけで、片方の親と疎遠になることは少なくありません。
しかし、いくら疎遠になっていたとしても子どもである以上、相続人であることに変わりはありません。
疎遠になっていた親が再婚し、再婚相手との間にも子どもがいたとしても同様です。

ほかの相続人に対し「相続しない」という意思表示をしても、家庭裁判所を通じた手続をしなければ、相続放棄したことにはなりません。
そのため、相続するつもりがないのであれば、相続放棄の手続をしておくことをおすすめします。
相続放棄をしていなければ、被相続人(亡くなった人)の借金など負の財産を背負わされることになりかねないからです。

この記事でわかること
  1. 相続放棄の基礎知識
  2. 相続放棄をする際の注意点
  3. 被相続人と疎遠だった場合によくあるQ&A

親が離婚しても、子は親の遺産を相続する権利がある

夫婦は離婚すれば他人になりますが、その間に生まれた子どもとの親子関係まで消滅することはありません。
そのため、たとえ親が離婚して疎遠になっていても、親が死亡すれば子は親の遺産を相続する権利があります 。

離婚した父親が再婚していても、子は相続する

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父親は再婚しているようなのですが、その場合、現在の奥さんやその間にできた子どもが優先して相続するのではありませんか?

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いいえ。
被相続人の子どもは、平等に相続する権利を有しています。
したがって、現在の奥さんの子どもと、あなたの法定相続分は同じになります。

被相続人が再婚して子どもがいる場合の相続分について解説します。
このような場合、相続人が多く、相続手続が複雑になることがあります。

再婚後の子どもがいる場合
現在の妻(配偶者)と、あなたを含む被相続人の子ども全員が相続人となります。

再婚後の子どもが先に死亡して、(被相続人からみて)孫がいる場合
現在の妻(配偶者)と、あなたと孫が相続人となります。

再婚後の子どもがいるが、さらに離婚している場合
再婚相手は相続人とはならず、あなたを含む被相続人の子ども全員が相続人となります。

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再婚後の子どもが複数いる場合や、再婚後さらに離婚してまた別の人と結婚している場合には、相続関係はより複雑になるでしょう。

相続は義務ではなく、するかしないかを選べる

相続人であるからといって、必ず相続しなければならないわけではありません。
相続人は、相続放棄をすることもできます 。

民法915条1項
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。

引用:民法 | e-Gov法令検索

相続を単純承認すれば、被相続人のプラスの財産だけでなく、借金のようなマイナスの財産も相続することになります。
そのため、相続放棄は、被相続人に多額の借金があるような場合に選択されることが多いです。
また、被相続人と疎遠であり、よく知らないほかの相続人とやり取りすることが億劫な場合にも相続放棄が選択されることがあります。

相続するかしないかは、期限内に決める

相続手続は、他人の利益に関わることもあるため、一定の期限が定められています。

相続放棄は基本的に「3ヵ月」

相続放棄は、「自己のために相続の開始があったことを知ったとき」つまり「被相続人が亡くなったこと」+「自分が相続人であること」のいずれも知ったときから3ヵ月以内に手続しなければなりません。
親が死亡すれば、その子どもは原則として相続人となりますので、この場合に相続放棄をするには、基本的には「親が死んだことを知った時から3ヵ月」以内にする必要があります。
被相続人と疎遠であった場合、被相続人の死亡からしばらく経ってから、被相続人の死を知らされるケースが少なくありません。
その場合、相続放棄は、実際に被相続人の死を知らされた日から原則として3ヵ月以内にしなければなりません。

相続開始日について詳しくはこちらの記事をご覧ください。

遺産分割は基本的に「10ヵ月」

遺産分割自体に、期限はありません。
しかし、相続税の申告期限が被相続人が亡くなった日の翌日から10ヵ月以内」であるため、相続税の申告が必要となる場合には、基本的にはそれまでに遺産分割協議を済ませたうえで、相続税の申告・納付をしなければいけません。

そうはいっても、相続人をすべて特定して連絡を取り合い、相続財産の内容を調査するだけでなく、何をどのように分けるのか話し合って相続人全員の合意に至ることは大変な場合もあります。
特に、被相続人と疎遠だった場合、相続財産を調査することは困難でしょうし、ほかの相続人が自分に対してあまりよい感情を持っていそうにないのであれば、すんなりと情報を開示してくれないかもしれません。

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10ヵ月というと結構長いと思うかもしれませんが、実際にはスピード感をもって処理する必要があるでしょう。

課税遺産総額=課税価格の合計額-基礎控除額(3000万円+600万円×法定相続人の数)

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実際に相続税が課税されるのは、2021年(令和3年)度は全体の9.3%(※)と少数派ですが、2020年(令和2年)度は8.8%と、この割合は年々増加傾向にあります。

  • 2022年(令和4年)10月31日までに提出された申告書データに基づく数値です。

参考:令和3年分相続税の申告事績の概要|国税庁

疎遠な親の遺産を相続放棄するときの注意点

次に、相続放棄の際に注意しておきたい点についてご説明します。

期限を延長できることがある

3ヵ月という相続放棄の期限は、利害関係人が家庭裁判所に延長を請求することができます。
ただし、延長が認められるのは、「期間内に相続人が相続財産の状況を調査しても、 相続放棄するかどうかを決定できない」と家庭裁判所が認めた場合に限られます。
そのため、請求すれば必ず延長が認められるわけではありません。

参考:相続の承認又は放棄の期間の伸長|裁判所

あとで資産があったことがわかっても、相続できない

いったん相続放棄をしてしまうと、あとから撤回することはできません(民法第919条1項)。
大した遺産はないだろうと思って相続放棄したあとで、実は多額の預金や不動産を持っていたことがわかったとしても、いったん相続放棄をしてしまえば、もはや相続することはできなくなります。

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再婚相手の子どもが、父には財産がなく、多額の借金しかないと言っています。これが嘘で、だまされて相続放棄をしたような場合も相続放棄は撤回できないのですか?

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たとえば、だまされて相続放棄をした場合に、「錯誤」を理由に相続放棄を取り消せる可能性がないとはいえません。ただ、相続放棄の取消しが認められるハードルはとても高いので、相続放棄の前によくよく財産を調べた上で相続放棄をするかどうか決めるべきでしょう。
預金の残高証明書を見せてもらったり、借金があるというのであれば、その詳細をしっかり確認することをお勧めします。

相続放棄するよう言われても拒否できる

相続放棄は、自分ひとりの意思でするかしないかを決めることができます 。
仮に、他の相続人から相続放棄の手続をするように言われたとしても、従う必要はありません。

疎遠な親の遺産を相続放棄する際によくある質問5つ

次に、被相続人と疎遠だった場合によくある質問にお答えします。

自分が相続放棄したら、自分の子どもや母親に迷惑がかかるのでは?

相続放棄をした相続人は、最初から相続人ではなかったことになります。
つまり、あなたの子どもがあなたの代わりに相続人になる(「代襲相続」といいます)ことはありません。
また、あなたの母親は、すでに被相続人と離婚しているため、もともと相続人ではありません。
そのため、あなたが相続放棄をしても、何ら影響を受けることはありません。

「自分は相続しない」という内容の書面に署名・押印して返送しろと言われているけど?

このような内容の書面は、相続放棄とは異なり、あなたの相続分はゼロという遺産分割協議に合意しろという趣旨です。
これに署名・押印しても、相続放棄はしていないため、被相続人に借金や未納の税金などがあれば、相続人としてあなたも請求される可能性があります。
遺産分割協議はあくまでも相続人同士の取決めであって、その内容を債権者に主張することはできないからです。
その点、遺産を相続するつもりがないのであれば、相続放棄をしておいた方が安心でしょう。
また、相続放棄をすれば、初めから相続人ではなかったことになるため、遺産分割協議に参加する必要はありません。

疎遠だったから、親にどれだけ遺産があるのか知らないのですが?

被相続人の遺産の内容は、死亡時の妻やその子どもたちが把握していることが多いでしょう。
相続放棄するにせよ、相続するにせよ、遺産の内容を知りたいのであれば、被相続人の死亡時の家族に聞いて問題ありません。
また、あなたも相続人には変わりないため、個別に遺産について調査することも可能です。

相続放棄の手続は自分でもできる?

相続放棄の手続は、自分でも行うことができます。

(1)まず、次の書類を取得します(親である被相続人の相続放棄をする場合)。

  • 被相続人の住民票除票または戸籍附票
  • 相続放棄をする人の戸籍謄本
  • 被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍謄本)

(2)相続放棄の申述書(裁判所のホームページからダウンロード可能)に必要事項を記載し、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に(1)で取得した書類とともに提出します。

申述書を提出後、家庭裁判所から相続放棄申述受理通知書が届き、手続が完了することもありますが、家庭裁判所から照会書が届く場合があります。
その場合には、照会書に回答する必要があります。

(3)家庭裁判所から相続放棄申述受理通知書が届きます。

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相続放棄の申述書には、収入印紙800円分(相続放棄する人1人につき)と、連絡用の郵便切手も同封する必要があります(収入印紙は、申述書に貼付)。

参考:相続の放棄の申述|裁判所

仕事や家族サービスなどで忙しい毎日のなかで、間違いがないように書面に必要事項を記載したり、過不足なく書類を提出したりするのは、手間がかかるでしょう。
弁護士に相続放棄を依頼すればスムーズですし、忙しいあなたの代わりに手続を行ってもらうことができます。

相続放棄したことは、連絡してきた人に伝えるべき?

伝えなければならない法律上の義務や罰則があるわけではありません。
しかし、被相続人の死亡を連絡してきた人には、相続放棄したことを伝えておいた方がよいでしょう。
あなたが相続放棄をしたことで、相続人の構成が変化するためです。
相続放棄をしたことの証拠として、相続放棄申述受理通知書のコピーを送ってあげてもよいでしょう。

相続放棄をせずに、遺産分割協議をするときの注意点

被相続人の遺言があれば、遺言に従うことになるのが原則です(※遺言執行者がいない場合、基本的には相続人等が全員合意すれば遺言と異なる遺産分割協議も可能です。)。
そして、誰がどの遺産を相続するのかについて、相続人全員で合意して書面を作成することになります。
ほかの相続人と関わりたくないと思っても、相続放棄をしないかぎり、あなたも相続人のままです。
遺産分割協議は、相続人全員でする必要があり、一部の相続人を除いて遺産分割協議をすることはできません。
そのため、相続するなら、遺産分割協議に参加する必要があります。

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当事者同士や、弁護士に依頼するなどして話合いで合意がまとまればよいですが、もめた場合には、家庭裁判所での調停に発展することもあります。

【まとめ】疎遠だった親の遺産を相続しないなら、家庭裁判所で相続放棄の手続を

今回の記事のまとめは次のとおりです。

  • 離婚して疎遠になった父親が再婚していても、父親が死亡すると子は相続人となる
  • 親の遺産を相続するかしないかを選べるが、相続放棄は基本的に親が死んだと知ったときから3ヵ月以内にしなければならない
  • 相続税の申告が必要な場合、遺産分割協議は、基本的に死亡から10ヵ月以内(相続税の申告期限)に済ませておくべき
  • 相続放棄は、あとから撤回することはできない
  • 相続放棄をすれば、はじめから相続人ではなかったことになる
  • 「自分は相続しない」という内容の書面に署名・押印しただけでは、相続放棄をしたことにはならず、被相続人の借金などを請求される可能性がある

アディーレ法律事務所に相続放棄をご依頼いただければ、次のことを弁護士が代わりに行います。

  • 戸籍謄本の収集
  • 相続人の調査
  • 裁判所に対して行う相続放棄の申述
  • 裁判所からの照会書に対する対応
  • 相続放棄申述受理通知書の受領
  • 支払いの督促をされている債権者へ相続放棄したことの連絡
  • 後順位相続人へのご連絡およびご説明

これにより、依頼者の方の負担を減らすことができます。

また、アディーレでは、費用面の心配をせずにご依頼いただけるように「損はさせない保証」をご用意しています。この「損はさせない保証」によって、万が一、相続放棄のお手続が完了できなかった(相続放棄の申述が受理されなかった)場合には、弁護士費用は原則として全額返金いたします。(※)

  • 委任契約の中途に自己都合にてご依頼を取りやめる場合、成果がない場合にも解除までの費用として、事案の進行状況に応じた弁護士費用等をお支払いただきます。

相続放棄に関するご相談は何度でも無料ですので、「相続放棄を弁護士に依頼しようか迷っている…」という方は、一度お気軽にご連絡ください。

橋 優介
この記事の監修者
弁護士
橋 優介
資格
弁護士、2級FP技能士
所属
東京弁護士会
出身大学
東京大学法学部

弁護士の職務として特に重要なことは、「依頼者の方を当人の抱える法的問題から解放すること」であると考えています。弁護士にご依頼いただければ、裁判関係の対応や相手方との交渉などは基本的にすべて弁護士に任せられます。私は、弁護士として、皆さまが法的な心配をせず日常生活を送れるように、陰ながらサポートできる存在でありたいと考えています。

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